【日本酒造り】今年のお米が溶けやすいかどうか予想する方法とは
毎年、酒蔵の業界で必ずと言っていいほど話題になるもの。
それが、「今年のお米は溶けやすいのか、溶けにくいのか」問題です。
その年の米の出来具合によって、蒸し米の溶けやすさ・溶けにくさは必ず変化します。
酒造りをスタートしてから数本造った段階で、研究機関や杜氏などが業界内でその年の蒸し米溶解度合いの見解が共有されることが多いです。
日本酒造りをする我々にとっては、溶けやすさはもちろん一大事です。
麹造りや醪の管理方針を決めるのに重要だからです。
お米の収穫前には、まるで天気予報のごとく発表されることもあるこの問題。
今回はそのメカニズムと予測方法についてご紹介します。
蒸米のデンプン質は老化(β化)する
そもそも、お米を蒸す理由は何でしょうか?
それは、お米のデンプン質をいったん糊化(α化)するためです。
「蒸しの目的はα化」といっても過言ではありません。
これがないと、消化酵素の影響を受けられず、ただの生米が酒粕になってしまいます。
とはいえ、蒸したお米は、永遠とそのままの状態にあるわけではありません。
時間が経って冷えてくると、逆に老化(β化)という変化が起こります。
老化(β化)が起きると、お米は硬くなって消化酵素の影響を受けにくくなり溶けにくくなるのです。
酒造りでは、低温長期発酵が基本スタイルです。
ですので、蒸米がどれだけ溶けるかは、老化(β化)速度によって影響されます。
デンプン質は2つの要素からできている
前提知識としてまずは、デンプン質を構成する2つの要素を知っておく必要があります。
デンプン質は、「アミロース」と「アミロペクチン」の2つの要素から成り立ちます。
「アミロース」とは、ブドウ糖が直線的に連なったものです。
ブドウ糖が3000-12000個結合して出来ています。
「アミロペクチン」とは、バナナの房のように、ブドウ糖が複数に枝分かれして連なったものです。
ブドウ糖は約100万個結合してできています。
お米の種類によって、この構成比が異なってきます。
粳(うるち)米では、アミロースが17-21%で、残りがアミロペクチン。
糯(もち)米では、アミロペクチンが100%になります。
経験的に、糯(もち)米が溶けやすく、粘りの少ないインディカ米(粳米)は溶けにくいというのはよく知られています。
お餅はゆっくり固まっていくという日常の感覚と一致すると思います。
ちなみに、西堀酒造の愛米魅(I MY ME)金の純米酒は緑米という古代米の糯(もち)米を使っており、甘さを引き出している大切な要素となっています。
つまり、お米が溶けやすいかどうかは、老化(β化)の速度によって決まってくるのです。
老化(β化)の速度を決めるもの
実は、アミロースとアミロペクチン、それぞれの老化(β化)速度には次の性質があります。
①アミロースの含有量が多いほど、老化(β化)が早い
②アミロペクチンの房(枝)が長いほど、老化(β化)が早い
という性質があります。
なぜ、糯(もち)米は溶けやすいのか。
それは、アミロースが全くなく(0%)、老化(β化)が遅いからです。
酒造りにおいては、ザックリいうとお米を溶かせば溶かすほど甘さが出てきます。(参考:糯四段)
甘酒をつくるときでも、うるち米よりもち米の方が甘くつくることができるのは、このためです。
しかし、通常、酒造りで使用されるお米のほとんどは、アミロースの含有量にほとんど差がないというのが現実です。
ですので、酒造りの業界で気にするのは、②の性質です。
「今年の酒米のアミロペクチンは、房(枝)が長いの?短いの?」
これに尽きます。
房(枝)が長ければ溶けにくいですし、短ければ溶けやすいのです。
房(枝)の長さは気温で決まる
それでは、今年のお米は溶けやすいのか否か問題の核心に迫ります。
酒米はアミロースの含有量がほとんど変わりません。
気にするのはアミロペクチンの房(枝)の長さです。
房(枝)の長さは、稲の登熟期気温に左右され、次の性質があります。
・夏の登熟期気温が高い→アミロペクチンの房(枝)が長い→溶けにくい
・夏の登熟期気温が低い→アミロペクチンの房(枝)が短い→溶けやすい
つまり、
「暑い夏、早生品種のとき」→米は溶けにくい
「涼しい夏、晩生品種のとき」→米は溶けやすい
ということになります。
要するに、その年の稲の登熟期(夏)の気温さえ把握できれば予想できるということです。
どうでしたか?
今回は、「お米が溶けやすいかどうか予想する方法」について、そのメカニズムとともにご紹介しました。
これであなたも試飲会等で蔵人とドヤ顔で(笑)玄人話に花を咲かせることができるかと思います(笑)。
ぜひ参考にしてみてください!