醸—環世界04 【SAKE RE100】
酒はしばしば「生きている」と形容される。
その内奥には、目に見えぬ無数の他者――酵母、菌、微生物たちが呼吸し、関係を織りなしているからだ。
発酵とは、支配や命令によってではなく、共存と相互作用から生まれる生成のプロセスである。
それはドゥルーズとガタリが語った「リゾーム的社会」の比喩そのものである。
リゾームとは、タケやショウガのように地下茎として広がる構造であり、
中心も階層も持たず、あらゆる方向に伸び、結び合い、互いに影響を与え続ける。
この構造を社会や思想に適用すれば、
一元的な支配を拒み、多様性と共発酵的な関係性の中で生きるという構想が立ち現れる。
西堀酒造の透明な発酵タンクを側面から覗き込むと、泡の浮沈や層の変化の背後で、
微生物たちが互いの存在を調整しながら絶えず生成し続けていることに気づく。
この現象は、現代社会が希求すべき倫理的モデルの一端を示している。
発酵は、指示や統制によって成立するのではなく、複数の存在が関係性の中から偶発的に立ち上がる生成であり、
それはまた、固定化されたアイデンティティではなく、常に混ざり合い変容し続ける過程であり、
さらに他者を同化せず共存するという、非暴力的な存在の仕組みでもある。
この発酵的社会観のもと、SAKE RE100は、
人間のみならず微生物、環境、技術、社会、思想が相互生成する「哲学的共同体」としての酒造りを志向する。
我々が目指すべきは、明快な答えや固定的な構造ではない。
複数の関係性が発酵する醪のように静かに、しかし確実に混ざり合い、
新たな世界の味を生み出す――そのような生成のエコシステムなのかもしれない。