醸—環世界02 【SAKE RE100】
私たちはしばしば、「世界をひとつに」というスローガンを口にする。
しかし、その“ひとつ”という語には、しばしば無意識のうちに均質化への誘惑や差異の排除が潜んでいる。
多様性は祝福される一方で、その背後に潜む同調圧力や画一化の衝動は、言葉の陰影に紛れ込みやすい。
ユクスキュルが見出した「環世界」の視座からすれば、人間とは本来、他者とは異なる世界を生きる存在である。
それは対立ではなく、むしろ異なる環世界が交差し、時に摩擦しながらも、互いに影響し合い共存することにこそ、“人間的な豊かさ”がある。
この発想は、西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」や、レヴィナスの他者論とも深く共鳴する。
価値観や世界観の相違を「矛盾」として切り捨てるのではなく、その矛盾を抱え込んだまま、なお共に在り続ける。
それは、単なる共存ではなく、矛盾の内部で生成される創造的共在であり、真の「平和の哲学」の中核である。
SAKE RE100が大切にしているのは、この多元的な共生の思想である。
酒はそもそも、宗教的祭祀に表れるように、共同体を媒介する文化装置であり、異なる価値観や信仰を一時的に架橋する道具でもあった。
乾杯という行為は、宗教を超え、国境を越え、言語の壁さえも透過する。
そこでは理論よりも先に、感覚的な共振が立ち上がる。
私たちが届けるのは、単なる「再生可能エネルギーで醸した酒」ではない。
その酒を媒介として、異なる環世界同士が泡のように接触し、融合し、時に分裂し、再び発酵しながら、未知の味わいと香りを生成する場そのものである。
闘わずして他者と共に在る方法。
それは、議論や説得による統合ではない。
それは、自らの環世界の外に広がる不可知の可能性――想像すら及ばぬ、分かり合えぬ他者の存在――を肯定し、その肯定を行為として積み重ね、環世界を絶えず更新していく営みである。
その思想の一滴として、SAKE RE100は、静かに、しかし確かに、未来を醸し続けている。